もう10年以上も前の話だ。しかし、今でも鮮明に覚えている。
彼女に別れ話をしたら、メガネをへし折られたのである。
少し長くなるがまずは彼女との馴れ初めから聞いて欲しい。
俺は当時大学2回生で2つ年下の彼女が居た。彼女は可愛くて、無邪気で明るかった。自分で言うのもなんだが世間一般から見ても可愛かったと思う。上流階級の娘で一人っ子。有名私立に通い、お嬢様であった。
そんな彼女となぜ付き合うことになったかも触れておこう。
当時、俺は居酒屋でバイトをしていた。活気のある店で常連客も多く、金曜から日曜日にかけてはいつも満席で人気の居酒屋であった。
店長が面接で可愛い子ばっかり採用するので、働く同僚の女性は皆が美人であった。男性のアルバイトはイケメンは全く居なかった。(俺含む。)
しかし皆、男らしくアルバイトと言えど仕事に真剣で、店の活気、男性のやる気、美人のアルバイトが掛合わさってすごく楽しい職場だった。
仕事が終われば皆で飲みに行くのが常だった。
そんな中、俺はドリンクを作る担当として毎日アルバイトに精を出していた。俺のドリンクの提供速度は群を抜いていて、周りからもドリンク場の守護者と呼ばれる程だった。自分自身もお客様がまず注文するドリンクを如何に早く提供できるかを生き甲斐として、少しでも早くお客様に乾杯してもらえるように仕事に励んでいた。
ちなみにドリンクを作る場所は個室になっており、空いた時間はアルバイトみんなが暇を潰しにくる場所だった。厨房はオープンキッチンなので隠れることができない。
そんなある日、例の彼女(後の俺の彼女である)がアルバイトの面接を通過し、職場に入ってきた。挨拶もそこそこに一月ほど仕事をしていた。
そこで事件は起こった。
彼女は少し鈍くさかったので、何回か連続して軽微なミスを犯し(お皿を落として割ったり、注文を取り間違えたり)、店長からキツく怒られていた。
そんな中、彼女はお客様の前でビールをこぼしてしまい、それが相手の服にかかってしまったのである。
店長はお客様に直ちに謝りに行き、彼女に「もう下がってろ!」と言い放った。彼女は俺の居るドリンク場に逃げ込んできた。ドリンク場で自分への不甲斐なさと悔しさでシクシク泣く彼女。俺はどうしたらいいかわからずただ黙っていた。
ちょくちょく他のアルバイトが様子を見に来るが皆一声掛けて忙しかったので、すぐに持ち場に戻っていった。彼女は泣いている顔で外に出ることも出来ず、ただシクシクとドリンク場で泣いているのである。
最初俺はほっとこうと思っていたのだが、なんか声かけたほうがええのか?と自問自答を始め、大丈夫?と声を掛けた。彼女は「はい」と元気なさそうに答えた。
また沈黙。
私はしたことも無いのに彼女の頭をポンポンしながら「大丈夫やって!慣れてないし仕方ないやん。」と声をかけた。
彼女はそれで少しマシになったようで落ち着きを取り戻したようだった。
しかし、これがまずかった。
彼女は俺の頭ポンポンにキュンとしてしまったのだ。俺は全くそんなつもりではなかった。しかし、なんか元気出してあげないと!と思いついたのが漫画で見たような頭ポンポンだったのだ。よくもそんなイキったことをしたなと我ながらあっぱれである。まさにドリンク場の守護神である。
後日アドレスを教えてくれと言われ、食事の誘いを受けた。彼女は可愛かったのでオッケーをした。俺は女性経験が少なかったので、あまりデートや恋愛について詳しくなかった。女性と二人で食事なんてしたことなかったし、集団で遊ぶことはあってもデート的なことは全く皆無であった。
何度かデートに誘われ、好きみたいなことを言われた。俺がなぜかと聞くと「すごく落ち込んでた時に、頭をポンポンして励ましてくれた男性なんて今までいなかった。」と言われた。
つくづく罪な男である。
自分が小さい頃に泣いていた時、お母ちゃんがよくやってくれたので咄嗟にでた行動であろう。もはやマザコンである。そんな俺にこんな可愛い子が好意を抱いてるなんて。。。
断る理由も全く無かったのでオッケーした。オッケーしたというと上からになるのでオッケーさせていただいたと言い換えておく。いや、こちらこそありがとうございます。である。
順調に付き合っていたのだが、ある日俺は思った。彼女めちゃくちゃかまってちゃんじゃね?と。
それが段々ストレスになってきた。恋愛もロクにしたこともなかった俺は、あまりのかまってちゃんぶりにどう対処したら良いかわからず、日々ストレスを抱えることとなった。
ある日、俺は別れを告げた。そうすると彼女は「嫌だ」と言った。
なにか治すところがあるなら治すからと言われたので気になっているところを告げた。
彼女はわかったと言い、治すと言った。
しかし全く治らなかった。私は再びストレスを抱えだし、このままでは良くないと思ったので再び別れを告げた。
嫌だと言われた。
もはや嫌だと言われて論破するスキルも持ち合わせて居ない俺は「そうか」と相手に合わせる形となった。
何回かそのやり取りを繰り返し、ついに俺は決心して今日こそは絶対に別れる!と強い意志を胸に彼女に電話をした。
話したいことがあるから会えないか?と
彼女は嫌な予感はしたのだろうが応じてくれて、彼女の自宅近くの公園で会うことになった。
俺は今日は絶対に別れると決めていたので、勇み足で公園に向かった。
少し遅れて彼女が歩いてきた。
向かい合うなり俺は言った
俺:今日は別れを言いに来た。もう決めたから。
彼女:嫌だ。
彼女は泣き出した。
なんで?
なんで別れるとか何回も言うの?
俺は胸が苦しくなった。理由なんて上手く説明できるほどボキャブラリーがなかった。
俺:もう決めたから。
彼女:嫌だ!
俺:もう決めたから。
彼女:いや!!
俺:モウキメタカラ
彼女:嫌って言ってるやん!
俺:モウキメタカラ
もはやロボットと化した俺。
強い決心を胸に少ないボキャブラリーで応戦
モウキメタカラ
モウキメタカラ
7回くらい言ったであろうその時!
バチィン!!
掛けていた眼鏡が4メートル程向こうに飛んでいった。
彼女が俺に強力なビンタをお見舞いしたのだ。
視界がぼんやりした。視界が奪われた。
俺は咄嗟に眼鏡を拾いにいった。そして、拾った眼鏡を装着して彼女にこう言った。
モウキメタカラ
その瞬間、彼女は俺の掛けている眼鏡を鷲掴みにして、膝で真っ二つに叩き割った!
そして綺麗に2つになった眼鏡を地面に叩きつけた。
いや、なんで眼鏡を集中的に狙う?本体そっちじゃないから!
眼鏡と話してたんかな?
冗談はさておき、修羅場である。
視界を奪われた俺は真っ先にこう思った。家帰れねえ。眼鏡がやられちまった。
そして恐怖を感じたので、彼女に「まぁそういうことだから」と動じていないフリをして自転車にまたがり帰ろうとした。
急いで自転車を漕ぐと逃げているみたいで格好悪いので、ゆっくりめに漕いだ。
ガッシャアーーーン!!!
自転車ごと倒れる俺。
彼女が後ろから俺の自転車ごと飛び蹴りをカマしてきたのだ。
彼女は自転車の鍵を閉め、抜いた鍵を側溝に放り投げた。
自転車は蹴り倒され、眼鏡はスカウター状態。
スカウターで戦闘力を計測すると彼女の戦闘力は26万は軽く超えていた。
俺が鍵を取り出そうと側溝の中を覗いている間に彼女は「もう知らん」と帰ってしまった。
こんな結末を誰が予想したであろうか。
今思い出しても情けない限りである。
翌日大学にセロハンテープで補強したスカウターを装着してゼミに行ったところ、クラスメイトから散々イジられたのは言うまでもない。
俺の戦闘力測ってー!とか無邪気に言ってくる友人。
その後、彼女とは連絡を取らなくなり、しばらくして彼女から新しい男ができたから別れると言われ、この恋愛劇は幕を閉じるのである。
どうだったでしょうか?私の甘酸っぱい青春記録は。
以上、全て実話です。私はこのあとしばらく女性恐怖症になりましたとさ。